大阪高等裁判所 昭和30年(う)755号 判決
原判示事実は、原判決の挙示する証拠によつて証明十分である。所論は要するに、被告人等は本件の土地松原町阿保二百五十七番地二百九十八坪上に電気室を作つたことがない、右の土地は登記簿上宅地であつて農地ではないから、地目を宅地に変換するについて農業委員会の承認を要しない、従つて農業委員たる田中重信に金員を供与しても職務に関するものとはならない、本件の土地に関する「農地調整法第六条の規定による許可申請書」は内容不備で無効のものであり、また農業委員会の決議方法も違法であつて無効であるから、公務員の「職務」行為が存在せず、従つて贈賄罪とならない、と主張するのであるが、いやしくも公務員の抽象的職務権限に属する事項に当り、かつ公務員が職務執行の意思をもつて一定の行為をするかぎり、その行為に関し賄賂を授受するときは、該行為の効力のいかんにかゝわらず贈収賄罪が成立するといわなければならない。旧農地調整法第六条第一項、同施行令第五条第六号、昭和二一年農林省告示第一四号第二項によれば、市町村農業委員会は一団地五十坪未満の農地の所有者がその農地を耕作以外の目的に供しようとするとき、これに承認を与える権限を有するから、かりに本件の二百五十七番地(又は二百五十八番地)のうち四十九坪が耕作の目的に供せられている土地とみるか、又はこれを公簿上の地目どおり宅地とみるかについて事実認定上の疑問があつても、また、農業委員会への承認申請手続が不備であり、かつ同委員会の決議方法が違法であつても、被告人において同委員会に対する農地の潰廃承認申請手続並びに同委員会の承認に関し便宜な取扱いを受けたことに対する謝礼の趣旨で同委員会の委員に対し金員を供与するときは、贈賄罪が成立することは明らかである。しかのみならず、農地調整法にいわゆる農地とは、公簿上の地目のいかんにかゝわらず、現実に耕作の目的に供せられている土地をいうのであつて、現況において肥培管理を行い作物を栽培する土地はすべてこれを農地と解するべきところ、前記の証拠によると、本件の土地四十九坪には、従来大豆野菜類を栽培していたので、松原町農業委員会においてはこれを農地と認定していたところ、ここに被告人やその兄等が重役となつている株式会社吉村駒三商店が大工松村末吉に請負わせて工場の一部を建設しようとしたので、農業委員たる田中重信が大工の松村に注意したところから、被告人が田中に対して農地の潰廃手続を依頼し、田中は「農地調整法第六条の規定による許可申請書」(証第一号)を作成し、田中自らが農業委員長や同委員宅を持ち廻つてその承認印をもらつて来て、被告人に対し工事に着手して差支えない旨告知したので、被告人は、その便宜な取計いをしてくれたことに対する謝礼の趣旨をもつて原判示の頃、被告人に対したばこ光十個に添え金一万円を贈与したこと、右の許可申請書には制規の添附書類がなく、かつ内容空白で単に十八名の委員中八名が署名押印しただけであり、会議も議事録もないという承認行為としては全く違法無効のものであることを認め得られる。然らば、本件の土地は公簿上の地目のいかんにかゝわらず農地と解するべきものであり、被告人において、松原町農業委員会委員としてその潰廃を承認する職務権限を有する田中重信に対し、その承認申請手続並びに承認について便宜な取計いをしたことに対する謝礼として金員を贈与したものであるから、贈賄罪を構成すること明白である。被告人が田中に右の金員を騙取されたものであるとの所論は記録上根拠のない憶説である。記録を精査しても原判決には事実誤認、法令適用の誤等の違法はないから、論旨は理由がない。
(裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薫 判事 辻彦一)